平成19年度 第2回 掛川市景観市民講座「秋・里山の景観を考える」が実施されました。

平成19年度 掛川市景観市民講座 第2回 「秋・里山の景観を考える」
掛川市には、海、山、里など、多様な地域資源があります。
まちの景観を改めて見つめ直し、よりよい景観とは何かを考える掛川市景観市民講座の第2回。
今回のテーマは「秋の里山」です。
今回のフィールド「倉真地区」には、掛川にどこでもある里山の風景が広がっています。また、新東名PAができ、スマートインターも検討されていることから、掛川の北の玄関口になる可能性もあります。
フィールドワーク前のポイント説明では、以下のようなお話がありました。
①里山の風景は地域資源となるか
②「自然」と「人の営み」と「景観」の関係
③掛川市の北の玄関口として、おもてなし意識と景観について<
講師は第1回に引き続き、東京学芸大学准教授 鉄矢悦朗氏と、プロカメラマンの小川博彦氏。
さあ、どんな発言とどんな風景が撮影できたのでしょうか。
フィールドワーク先は、報徳神社

親水公園

旧杉村家、里山の民家

第2PA用地

倉真温泉

護岸工事をしていない川辺

八幡神社

茶畑を見下ろす風景 ※オプションとして

1.はじめに
[事務局より]
掛川市のあちこちに広がる里山空間。この「里山」は地域資源となるのか、地域資源とするためにはどんな視点や気づきが必要なのか。人が関わり、育てることで景観は美しくなるのだとしたら、どんなふうに関わればいいのか、講座を通じて感じ取って下さい。
2.フィールドワーク後のワークショップにて
[講師:鉄矢悦朗氏]
・水辺には水の音がほしい。
・田園風景の広がる水平感がいい。小さな山が続いているのはチャーミングな世界。
・地区の人たちが公園に苗を植えていた。手入れをしている風景はいい。
・倉真のまちは花や木々の「色」がある。生け垣や花壇の手入れをよくしている印象が際立つ。
・かやぶき屋根を今にそのまま残すのは難しいが、どのように残したらいいのか、地域の景観の中でどんなものがいいのか、私たち自身が考えていくことが大切。
・瓦の屋根は深みがある。均一の瓦よりも、色む
らのある瓦の方が味わい深い。効率優先の経済社会の中では手に入れるのが難しいが。
・東から走ってきて、トンネルを出たとき何が見えるのか、訪れる人の気持ちになって考えてみることが大切。(第2PAの用地にて)
・高圧電線を見るとき、この高圧伝電線で何人の人の生活が成り立っているのか想いを馳せることが大切。
・「いざなう」場所としてアプローチの工夫は大切。どうやってその世界に入って行くか非常に重要。
・里の冬支度の風景がいい。「そろそろ冬なんだ」とメッセージを伝えてくれる。
・茶畑や人工林など、私たちが「自然がいっぱいあるね」と言っているものは実は「人工」。自然との対話の中で、自然と接する手法として身につけた人の歴史が里山を作っている。
・人は常に変化するもの「流れる水」や「たき火」や「風に揺れる木」などを飽きずに見続けることができる。絶えず変わっていくけれど、同じものではない風景。豊かな時間を過ごすことができる。
[講師:小川博彦氏]
・ゆるやかな里の風景が倉真の魅力の特徴的な部分。
・ガードレールは風景を分断してしまう。
・水面に風景が映るのがいい。
・直線の道よりも、曲がったり、先の見えない道や風景に魅力を感じる。その先、その奥に行ってみたくなる。行った先に何があるのか、この先はどうなっているんだろうという期待感を持たせる。
・人間が何かをやろうとすると、山がなくなっていく。これがいいのか悪いのかの議論は別にして、全国のあちこちでこうして山が削られていく現実がある。そこで人は何を感じるのか。この風景は変わらない、と思っている風景が少しずつ変わり、なくなっていく。その現実を認識しなければいけない。
・竹林は一本一本が印象的。風が吹いていると、飽きずに見ることができる。竹は邪魔者扱いされるが、残ってほしい風景でもある。
・護岸していない川は、ほっとする。川が蛇行している風景がいい。曲がっている方が心を動かす。
[参加者より]
・人が手を加えた生け垣や花壇など「人が手を入れる美しさ」を実感した。しかし、同時に人が見て綺麗だと言ってもらえるよう手入れすることの大変さも感じる。手間とその兼ね合いが非常に難しい。まき囲いを守るのは大変。
・倉真温泉では、倉真の源流の素晴らしさを感じた。個人の所有のものであっても、誰でも散歩ができるようにして、地域の観光名所として整備できたらいい。掛川の中心街からそんな離れていないところに、手軽に行けるところに、こんなに綺麗な渓谷があることをもっと知ってもらうべき。整備されることを応援している。
・倉真の里山の風景の素晴らしさを感じた。数珠玉があったりして、子どもの頃を思い出した。
・山があって、川があって、気持ちがいい。水の音が聞こえるのはいい。
・藁の干してある風景はいい。心が和む。
・同じ掛川の里山でも、場所が変わると山並みや田畑の雰囲気が少しずつ違うと感じた。倉真ならではの里山があると感じた。
・ガードレールの汚さが目に付いた。
・里山の風景の中に、突如として西洋風の家が建てられていたりするのは違和感があった。地域の人が「地域の景観に合った家を建てよう」という意識が必要だと感じた。
・今、里山の管理は難しい。どうやって持続的に維持管理をしていくのか、「里山への想い」と「引っ張っていくリーダー」が必要だと思った。報徳の発祥の地なので、報徳プログラムの中で周知していくなど、地域にあったやり方で進めていくのもいい。
・第2PA完成に伴い、ここを起点に新たな人の流れが出てくる。今後、何もしなければ見苦しい看板がたくさん建てられるだろう。「看板が何もない景観」というのはそれだけで魅力があり、今は貴重でもある。この景観としての魅力を残すためにも、第2PA建設の際には、何かしらの景観条例な
どを設け、看板の乱立を防いでほしい。
[ガイド:倉真まちづくり委員会の皆さんより]
・この20年で倉真の人口は二割減った。この地域は滅びゆく地域
の見本のように思う。「自然が多い」というが、田園風景も茶畑も人の手が加わった人工のもの。手入れをしなければジャングルに戻る。今日は、皆さんに手が加えられた里山の美しさとともに、原始に戻っていく自然も見てほしかった。
・倉真地区には鉄塔も多い。鉄塔は自然を壊すもの。しかし、人間の生活を支えるものでもある。もうなくすことはできない。そういう様々な問題を抱えていることを実際に見てほしかったし、現代社会の問題点を現場で感じてもらいたかった。そういうことも含めて、地区がどんなふうに頑張っているか知ってほしかった。こうしたことを、外に情報発信していくことの大事さを感じるし、きちんと伝えられるようになりたいと思う。
3.まとめ[講師:鉄矢悦朗氏]
・こうしたワークショップの意味合いとして、「合意形成」ではな
「相互理解」が大切。「へえ、みんなそんなふうに考えていたんだ」「そんな視点があったんだ」という気づきが非常に大切になる。
・景観について、昔は不文律があったように思う。本家よりも大きな家を建ててはいけない、周囲に配慮しなければいけないなど、分をわきまえた精神があった。まさに「分度」があった。
・大学でデザイン教育をしているが、教育とは「教える」ことと
「育む」こと。教えるのは技術、歴史。育むのは勇気。これはまちづくりについても同じ。まちの歴史や技術は教えられるが、「草刈は大変だけどみんなでやろうよ」など決断する勇気は育むことが必要。勇気は育むことでしか生まれない。決定する勇気。そのとき、まちづくり委員会のような後ろ盾があると、地区の人の勇気を育むことができる。
・まちづくりは、教えてもらって、周囲によって育まれていくものだ。
・子どもが田舎に短期滞在できるシステムを作ったらいい。知らない土地ではなく、両親のふるさとなど。短期間でもその地域に暮らすことで、
①自然とのふれあいができるなど田舎暮らしができる、
②田舎に友だちができる、
③両親が田舎に帰るとき、子どもも自分の田舎に帰ったような状況を作ることができる。もう親だけの田舎ではない。一年とか長い期間ではなく、短期の滞在を可能にする仕組みを行政とともに作ればいい。
■第2回講師プロフィール
鉄矢悦朗(てつや えつろう)氏
建築家、東京学芸大学准教授、NPO法人「調布まちづくりの会」理事。掛川との関わりは、2004年に「掛川ひかりのオブジェ展」に学生有志と参加して以来。NPOスローライフ掛川主催「掛川ライフスタイルデザインカレッジ」のフォーラム講師を務める。東京都調布市在住。
小川博彦(おがわ ひろひこ)氏
小川写真事務所主宰、プロカメラマン。掛川市市勢要覧の撮影を手がけるなど、掛川周辺での撮影は多い。NPOスローライフ掛川主催「掛川ライフスタイルデザインカレッジ」のフライフィッシングとネイチャーフォトグラフィーの講師を務める。共著に『サイトフィッシングの戦術』。富士市在住。

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