平成20年度 第1回 掛川市民景観講座を実施しました。

平成20年度掛川市景観市民講座の第1回、「良好な景観を考える」が8月2日(土)に実施されました。

[講座の目的]
平成20年5月、掛川市は景観行政団体となったことで、良好な景観を残し育てていく方法を市独自で定めることが可能となりました。掛川市では良好な景観とは何かを市民とともに考える全3回の景観市民講座を実施し、「景観計画(取り組み方針・規制などのルール)」の策定に取り組んでいきます。
当法人はこの講座を掛川市と協働で企画運営し、私たちが暮らす掛川市にとって「良好な景観」とは何か、具体的な事例と共に考える機会を提供します。

第1回の講座では、「掛川市の良好な景観」「お気に入りの風景」「美しい街並みや建築物」など気になる景観の画像・写真を事前募集し、講座では、講師とともに応募画像を題材に「良好な景観とは何か」を検証、実際の場所へのフィールドワークを実施しました。
応募画像は47枚。講座には、31名の参加がありました。
[スケジュール]
9:00 掛川市役所4階会議室集合
9:00 オリエンテーション
9:10 講義「『景観』とは、『良好な景観』とは何か」(講師:鉄矢悦朗氏)
9:40 景観検証1「市内の景観を映像で振り返る」
10:00 景観検証2「市役所周辺の景観を観察する」
11:00 ワークショップ「良好な景観を考えよう」
12:00 終了・解散

[講師]
鉄矢悦朗(てつや えつろう)氏
建築家、東京学芸大学准教授、NPO法人「調布まちづくりの会」理事。掛川との関わりは、2004年に「掛川ひかりのオブジェ展」に学生有志と参加して以来。NPOスローライフ掛川主催「掛川ライフスタイルデザインカレッジ」のフォーラム講師を務める。昨年度の掛川市景観市民講座でも全3回の講師を務める。東京都調布市在住。
[内容]1.はじめに
■事務局 都市整備課栗田係長より
昨年以来、景観講座はNPOスローライフにお願いし、年3回、景観の見方、景観の役割、大切さを知っていただく市民啓発のための講座と位置づけ、実施している。年度が改まり、今回は第1回目となる。掛川市は本年5月に景観行政団体となった。これから3年ほどかけて景観計画を作るわけだが、市民の皆さんと一緒に景観について考えながら計画を作り上げていく。今日参加をしてもらっている皆さんにも、幅広くご意見をいただきたい。
■NPO法人スローライフ掛川 代表 井村征司 より
昨年から掛川市と協働で、この景観市民講座を実施している。我々NPOは、「ないものねだりからあるものさがし」という考え方が原点。景観講座という事業を通じて、掛川の良さを見つけたり、考えるきっかけにしてもらえればいいと思う。

2.講義
■講義「良好な景観とは」
東京学芸大学准教授 鉄矢悦朗
・景観とは何かを考えるとき、「景観は営み」「暮らしの工夫」という考え方が大切。
・プライベート空間であっても、一つ一つが景観を作っていることを意識することが大事。
・市民が労力をかけて理解しようとこだわって、景観に関わること、自分から関わって好きになることが、これから景観を考える上で大切。
・これまで、景観を評価するポイントは景観(空間)の奥行きだった。これからは時間の奥行き。時間の奥行きとは何かといえば、古いものと新しいもの、それぞれのエピソードを持つということ。
・「いい景観だな」と感じるときには丁寧に見ることが大切。見えないものを見ようとすると、耳もよく聞こえる、風も感じるようになる。
・大事なのが「うちはどういう分度を持つんだ」という基準。掛川がここまでだよという自分の基準、分度を情報発信していくことが大切。
・里山の風景を美しいなあと感じるとき、その風景を守ってきたのは農家の人で、そう考えると日本の農業政策まで考えなくてはいけないかもしれない。今の中学生が里山の素晴らしさを感じ、里山を作って守ってくれている人たちのエピソードを語れるようになれば素晴らしいが、語れなかったら危機的状況になる。この掛川市は、何をどう語り継いでいくのか。
・今回の講座のキーワードは、「見える化」「語れる化」。この
2つを皆さんに渡したい。語るのは恥ずかしいかもしれないし、「能ある鷹は爪を隠す」ともいうけれど、皆さんには声を出して伝えてほしい。伝えないと文化にならないし、伝えてはじめて踏み台になるのだから。
■画像を見ながら
鉄砲屋のレンガ壁

てまひまかけたものはそれだけでエピソードになる。一枚一枚焼いた壁は工業製品にはない焼きむらががあり、苦労感が伝わってくる。それがすでにエピソード。「いいあんばい」の価値観が見えてくる。今の子どもたちはものづくりに関わっていないので、「いいあんばい」が感じ取れなくなっている。
竹の丸前の路地

掛川には、駅前のまっすぐな都市的な道から、ふっと横道に入るだけでこうした道に入ることのできる独自の空間がある。新しいものと古いもの、時間の深みがある。
ヴァンドームの通り抜け、仁藤の交差点プライベート空間を人に出す優しさやゆとりを感じる。
城下町風まちなみ

賛否両論あると思うが、あとはどうエピソード化できるかだ。なぜ、なまこ壁なのか。掛川になまこ壁があったのかはわからないが、これは雨のハネが上がっても汚れないようにという配慮からの壁。否定を言うよりも、どういう話に作り替えていけるかが大事。
木造駅舎の掛川駅

建て替えの話もあるということだが、南口は新しく、北口は古いままでいいのではないか。若い人ばかりの町も、古い人だけの町もおかしいように、若い人もいれば古い人もいる町がいい。
松葉の茶畑

防霜ファンのない茶畑の美しさを知った。
3.観察
■観察場所
原川の歩道橋(歩きの歩道橋、国一バイパス、東名が交差する地点)
岡津の旧東海道松並木※バスの中から
天浜線の細谷駅と直線2.8㎞自転車滑走路
桜木駅
秋葉路※バスの中から二つ池 
※バスの中から
    
4.意見交換
■参加者感想
・もう稲穂が実り始めているところがあったが、横須賀では昨日、田植えをしたばかり。同じ市内でも田んぼの時間が違う。
・田んぼの緑はいろいろな緑がある。色の深さがある。自然の配色が素晴らしい。
・田園風景は人の手の加わったもの。人の手の加わった自然は素晴らしいと感じた
・今日、天竜浜名湖鉄道を見て、軽便鉄道を思い出した。生活の中で鉄道というのは重要だと思った。
・掛川のまん中に暮らしてきたが、掛川というところは、10分で田んぼに行って帰ってこられるところが素晴らしい。見えるものだけでなく、香りや温度。久しぶりに「田舎に来た!」と感じる1時間が素晴らしかった。
・「ここに、これがあればもっといいのに」というものだけでなく、「ここに、これがなければもっといいのに」と感じることがたくさんあった。人の手が加わっていくことのバランスの難しさを感じた。
・旧東海道の松並木が懐かしい風景だった。小笠山にも松の木がたくさんあったが、今は松食い虫の被害でだめになっている。
・景観には、自然や文化的なものを保護していこうとするものと、人工的な要求を満たしていこうとするものの2種類があると感じる。
・桜木駅は実家の近くなのでよく通るのだが、車から下りて見ることはなかった。今回、田んぼに下りて、線路に下りて、いろいろなことを感じた。「知っている」と「自分の中にエピソードを持つ」ことは違うのだと実感できた。
・今日、訪れた場所は、い
つも自転車で走っている道。自転車に乗って五感で感じる景色と、車や歩きで感じる風景とは違うのだと実感した。掛川は「点」で感じる景色ではなく「線」で感じることのできる景色だと思うので、この資源を活かすなら車より歩きか自転車がいいと思った。
・細谷駅の風情がいい。花壇があり、雑草もきちんと刈り込んであり、よく手入れされている。人の手が加わって美しい風景になっているのだと感じた。


■講評・まとめ
東京学芸大学准教授 鉄矢悦朗
・景観計画が進んでいくとき、「行政側が作ろうしている景観」と
「今、私たちが考えている景観」とズレがあるということを意識しなければいけない。国が求めている景観は、まだまだ見た目の部分をどうするかという話。100年くらいの景観計画の感覚ではなく、25年くらいの感覚。それだから違う、のではなく、そこを大きな目で見ながら、理解した上で市民が関わっていくこと。
・先ほど、参加者の方の意見の中に、「答えが見つからないから難しい」「割り切れないから難しい」という意見があったが、割り切れないのはいいことだ。「割り切れない心」というのは「奇数の心」つまり「好奇心」ということ。割り切れない、答えが見つからないから楽しいのであって、すぐに割り切れてしまったらコトは進んでいかない。いつまでも「ああだこうだ」と言っているから人間楽しい。ぜひ、「ああだこうだ」と言い続けてください。
・何を捨てて、何を残せばいいのか。なぜ景観について考えるかといえば、例えば倉敷の場合は観光が目的。掛川の場合は、今日、見たところを考えてみると、ここで年間何万人呼ぼうという景観はない。まちなかの場合は「にぎわいあるまちなかを目指す」ということが目的になるが、なぜ景観を整えるのかといえば、大事なのは「暮らしやすい」ということ。景観について考えるのは、ここに住む人が暮らしやすいことをみんなで考えていくということ。
・そのとき大切なのが、「相手の気持ちになって考える」ということ。商売でも相手の気持ちになって考えることが大切で、そういった視点で景観を考えていくことが大事。掛川にも槇の生け垣のきれいなところがあるが、あれは自分のためというより前を通る人のためであるように思う。相手の気持ちになって考えることが、暮らしやすいことにつながる。
・要素が増えていくこととのギャップは、我々がずっと好奇心を持ち続けることでしか埋めていけない。積み上げてきた面白さ、生きてきた暮らしの面白さを感じながら、景観から見えてくる面白さをずっと感じていただきたい。
 
5.おわりに
■事務局:NPO法人スローライフ掛川理事 佐藤雄一
参加者の皆さん、NPOの皆さん、先生、本日はありがとうございました。
参加者の皆さんのお話を聞いていると、三つのことが言えるのかなと感じました。まず一つ目は、「景観はプロセスを感じることが大事」であること。二つ目は「視座の置き方、視点の置き方一つで見え方が変わってくる」ということ。三つ目は「調和の必要性」。そのとき、「興味深い」という見方が重要であり、景観には単発的ではない長期的な視野が必要ということ。これから、この景観講座は第2回、第3回と計画しています。第2回は旧掛川市をフィールドワーク先に、第3回は旧大東、旧大須賀をフィールドワーク先にして、良好な景観とは何かを考えます。講師は引き続き鉄矢先生にお願いします。単発での参加もOKですので、ご参加をお待ちしております。
[予告]
■第2回講座
平成20年11月8日(土)予定。旧大東・旧大須賀エリアを対象に景観を検証。
■第3回講座
平成20年12月6日(土)予定。旧掛川市エリアを対象に景観を検証。

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