平成20年度 第3回 掛川市民景観講座を実施。

12月6日(土)、平成20年度掛川市景観市民講座の第3回、「良好な景観を検証する~旧掛川地区フィールドワーク(掛川市の印象をつくっている景観を検証する)」が実施されました。
[講座の目的]
平成20年度、第2回目の掛川市景観市民講座は、旧掛川地区の「掛川の印象をつくっている景観」をフィールドワーク先とし、東名高速掛川I.C、新東名高速倉真PAと田園風景、JR掛川駅北口・南口を検証しました。その後、掛川市立中央図書館地下会議室にて、景観の整え方、保存の仕方、改善の仕方など研究、講師と共に意見交換を行いました。

[講師]鉄矢悦朗(てつや えつろう)氏
建築家、東京学芸大学准教授、NPO法人「調布まちづくりの会」理事。
掛川との関わりは、2004年に「掛川ひかりのオブジェ展」に学生有志と参加して以来。NPOスローライフ掛川主催「掛川ライフスタイルデザインカレッジ」のフォーラム講師を務める。昨年度の掛川市景観市民講座でも全3回の講師を務める。東京都調布市在住。

[ポイント]
①まちの第一印象を決める「玄関口(駅・インター)」と、玄関口をつなぐ空間であり、掛川市の対外的なイメージをつくっている「田園空間」を題材とする。
②整備されたJR駅と高速I.C、これから整備される高速I.CとPAを検証する。
③訪れる人が初めて出会う掛川として、景観がどうあるべきか、どう創造するか、考えてみる。
[スケジュール]
8:20 集合・受付 (掛川市役所正面玄関)
8:30 バス乗車・移動 (車中でブリーフィング)
8:45 景観検証1:東名高速 掛川I.C (車中より見学)
9:20 景観検証2:新東名高速 倉真PAと田園空間(車中より見学)
10:20 景観検証3:JR掛川駅 北口・南口
11:15 レクチャーおよび意見交換会 (掛川市立中央図書館地下会議
室)
12:45 終了・バス乗車・市役所にて解散
[内容]
1.はじめに
■事務局 掛川市都市整備課より
本日は、たくさんの方にご参加いただきましてありがとうござい
ます。午前中、掛川の顔となる玄関口の景観をNPOの皆さんと一緒に見ていただ
きます。よろしくお願いします。
■講師挨拶 鉄矢悦朗(東京学芸大学准教授)
今日は、お出迎えする空間を見ていただくということです。視点のヒントとして、出迎える、人と出会う、帰ってくるとき、そのときの相手の気持ちになって考えてみることに心がけてください。その人の気持ちになって、景観の要素となるものを観察してほしいと思います。
あと、ポジティブ、ネガティブのちょうど真ん中の位置には立たないでください。悪いなら悪く、好きなら好きで、真ん中でどっちでもいい、という姿勢はとらないでほしいと思います。気持ちがゆれたり、偏ることが大切です。今日は、どうぞよろしくお願いします。

2.観察
■観察場所 
東名高速掛川I.C(車窓より)
新東名高速倉真PA
田園風景(車窓より)
JR掛川駅北口・南口

3.講義 東京学芸大学准教授:鉄矢悦朗
私たちが今やらなくてはいけないのは、伝えるべきものをジャッジすること。今、このジャッジを誰がしているかといえば、土地を持っている人であり、不動産やさんだ。「この家は古いから建て替えよう」とか「この土地をもっと有効活用しよう」とか、ジャッジが経済という基準で動いてしまっている。そして、気がついたら「あれ残しておけばよかった」となる。壊すと2度と戻らないことを肝に銘じて、ジャッジを丁寧にしなければいけない。
今年度、3回シリーズでやってきた「良好な景観」。私も「良好な景観とは何か」常に考えてきた。良好とは、個人の好みによるものだが、相手の気持ちになっていくと、みんなで快適に暮らすためにはどうしたらいいか、という視点が出てくる。愛着のある景観が強いともいえる。
有名な京都タワーだが、できた当初は景観論争がすごかった。何年も経ったあと、あれを見ると「京都に帰ってきた」という印象の人が増えてきた。時間が作った愛着が出てきたということ。この愛着が、いいものであり、くせものでもある。愛着とは何かといえば、「なんともいえないもの」。なんともいえないと、伝わらない。これを、きちんと伝えられるように明文化することが重要。こうしたことは、コンサルタントといわれる専門家がお手伝いしてくれる。
これから市が景観計画を作っていくといっているときに、どうして事前に皆さんにこうして集まってもらっているかといえば、愛着の明文化がコンサルタントにはできないから。愛着のある場所を教えてあげなくてはいけない。
あと2年くらいかけて作っていくときに、市が呼びかけたときには何かしらの反応をしていって、少しコンサルタントを困らせるくらいにしなければいけない。「そんな文章じゃあ伝わらない」というくらいいわなければ、私たちにとっての良好な景観、愛着ある景観は残らない。この3回をこれだけで終わらせないために、なるべく声を出すこと、みんあでいい景観をあぶり出して、歴史を作っていくことが重要になる。

4.意見交換
■参加者感想
[東名I.C]
・インター8景の意味を知ることができてよかった。
・高速をでて、初めてにる正面看板について、統一して欲しい。矢印、地名の看板はいい。
[新東名倉真PA]
・今日立った新東名の場所から見る景観は、今後一生見ることのできない景観だといわれたが、破壊の空間を見に行ったような気がした。
・新東名を観光面に使うなら、アクセス道路の整備が必要だと思った。
・アクセス道路の必要性もわかるが、自然との折り合いが難しい。倉真の皆さんの熱心な様子が伝わってきた。
・倉真のPAはトンネルとトンネルの間にあると聞いた。きっと、暗いところから出てきて星がきれいだと思う。天体観測できるPAができると面白い。掛川には新星を発見した西村さんもいる。空気が澄んでいる証拠。そうしたエピソードを活用できたら、日本一の、世界で一つの、PAができるのではないか。
・倉真の森は、杉やひのきだけでないのが素晴らしい。
・破壊と自然をどう考えるのか、難しい。あるべき自然と開発と、どう折り合っていくのか。
・倉真の山が鉄塔だらけの風景は、ふるさとの山を壊しているが、でも必要なもの。負の遺産でもある。

[田園風景]
・田園風景を見て、家が多くなったと感じた。夕方の風景も素晴らしい。
・まちなかを出ると、すぐに懐かしい田園風景に出会えるのがいい。
[駅周辺]
●駅について
・天浜線の駅の構内がいい。新幹線が入ってきて、東海道線の電車が入ってきて、天浜線の電車が入ってきて、3つあるのは魅力だ。掛川駅に降り立った人は、天浜線を見て「これはどこに行くのかな」と思うのではないか。
・駅舎の釘やつばめの巣など、視野を広げるものの見方があるということを教えてもらった。そういう違う視点で、ものを見ていきたい。
●駅周辺の樹木、看板などについて
・掛川駅周辺に緑や余分な空間があるのが素晴らしい。
・駅から出たところにある掛川市全体の看板だが、北口の看板は海が下でいいが、南口の看板は海が上にあってほしい。その方がわかりやすい。
・駅の周辺を歩いて面白かった。何か通年型のイベントを実施するなど歩く仕組みができるといい。
・駅周辺の紅葉がきれいだった。花があるともっといいと思った。
・図書館周辺の蓮池、紅葉と弁天橋、報徳図書館が素晴らしくいい。でも、観光客のものという印象があり、地元の人が自分たちのものと感じる何かがほしい。
●中心市街地について
・駅から図書館まで久しぶりに歩いた。シャッターが下りている店が多くてびっくりした。
・駅から城までの道は、あれだけ広く、整備されているので、いつかは歩行者天国にして、子どもたちがワイワイ遊べるスペースになればいい。
・40年ほど前、掛川駅を降り立った正面に茶の木のオブジェがあり「ようこそお茶のまち掛川へ」の文字があった。ぜひ復活させてほしい。
●木造駅舎について
・掛川駅の北口は歴史のまちで古い駅舎がある。南口は新しいまちで近代的な駅。そういう対比できる駅は他にはないので、ぜひ残してほしい。
・木造の天守閣があり、図書館があり、そういう木の文化を活かしたまちづくりをしているので、ぜひ木の駅舎は残してほしい。
・天浜線の駅の形はとんがり帽子でいい風情だったが、今は電光掲示板で見えない。赤字路線で経営的に必要なのかもしれないが、駅を見直すとき、天浜線の駅舎も一緒に見直してほしい。
・夜の駅舎の窓からもれる光はやさしい光に感じて、「帰ってきたなあ」と感じる。ぜひ、掛川駅を残してほしい。
・木造駅舎はぜひ残してほしい。もし建て替えるなら、今使ってある木を再利用する形にするなどしてほしい。

[全体として]
・テレビの宣伝より、「このまちっていいね」という口コミの力が大事。
・くろがねもちの街路樹が素晴らしい。春夏秋冬、すべての季節に楽しめるものがあったらいい。
・つま恋のAPバンクコンサートには8万1千人が一堂に集まる。参加させてもらって、人は集まるのだと思った。せっかく全国から来てくれた人に、他にとどめる工夫が少しもされなかった。
・新東名のひらけたところで、ひっつき虫がついた。我々は、景色を見て、悪いもの、いいものを話すとき、引っつき虫のように「掛川のよさ」という種子をみんなに着けていくことが必要だと感じた。そして、市やNPOは落とさないように、仕掛けを考えたり、形状を考えたりしていくことが必要だと感じた。

■講評・まとめ
東京学芸大学准教授 鉄矢悦朗
1点だけ、気になったことを。「久しぶりに掛川に来て、シャッターが閉まっていて驚いた」という意見があったが、だから、シャッターが閉まってしまうんでしょうね、と感じた。「久しぶりに掛川に来て」ではなく、毎日掛川に来て買い物をするようにならなくてはシャッターは閉まってしまうということ。「毎日買い物をするものがない」のではなく、毎日買い物したいものは何なのか、お店の人に教えてあげなくてはいけないということ。面倒くさくても、大きなお世話という第一歩を踏み出さなくてはだめということだ。みんな気づいているが、なかなか出来ないことだと思う。しかし、お店の人に少しずつでも言ってみる勇気を持つことが大切。
駅舎を残す、残さない、いろいろな意見があったが、市民の税金の中でやりますか、という中で動かざるを得なくて、国の指針としては耐震はしていかなくてはならない。皆さんの意見を聞きながら思ったのは、皆さんの中で何が大事なのかを整理した方がいいということ。何を残したいのか。形を残したいなら、周りを全部四角く囲って吊り下げるというスタイルになることだってあるかもしれない。全く新しい建材で同じ形ならいいのか。それとも、「今日、見た古い釘がもったいないとからいい材料は使ってほしい」ということなのか。
夜帰ってきて明り取りの窓からもれる灯りがロマンチックだった、という意見があったが、そういうスケール感を残して欲しいということなのか、そのあたり、自分たちは何を残したいと思っているのか、もう一度整理する必要がある。JRがお金を出して耐震していいものにしようとしているときに、どういうアイデアを出し、どういう工夫を出すかが大事。このままただ「残せ」といっても、JRとい
い握手はできない。いい握手ができることを、私も望みます。

■事務局:NPO法人スローライフ掛川理事 佐藤雄一
JRの事情に立ったり、シャッターを下ろしてしまう家の事情に立ったりすると、「名物駅舎にしたら、見に来るんじゃないか」という論理になる。景観を残せ、ただ言うのではなく、どう見て、どう視点を変えて、どう説明ができるのか、説得ができるのか、が大事になってくるということだと思う。
景観とは、生活や商いや営みと密接に関わっているもの。営みの事情によって左右されるものでもある。皆さんのお話、先生のお話の中でそんなことを思いました。全3回、連続でご参加いただいた方も多くいらっしゃいます。本当にありがとうございました。

5.おわりに
■事務局 掛川市役所都市整備課より
本日は、多数ご参加いただきありがとうございました。
本年度の景観講座は今日でおしまいになりますが、皆さんのご意見の中に「こういう場を作ってもらって、知る機会を得たのがよかった」という意見も多くありましたので、可能であれば、来年度以降も講座を開催していきたいと思っています。また機会があれば、ぜひ皆さんご参加いただければと思っております。本日はありがとうございました。3回にわたり、ご指導いただきました鉄矢先生、本当にありがとうございます。これにて第3回掛川市景観市民講座を終了いたします。

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